2025年6月12日 秋田魁新報に掲載されました
優れた中小企業を表彰
秋田銀行のシンクタンク秋田経済研究所(新谷明弘事長)は、県内の優れた中小企業や団体をたたえる2024年度の中小企業振興表彰に3社を選び、11日に表彰式を行った。
運送業の秋豊ネットライズ(秋田市)、眼鏡店や飲食店経を展開するタカヤ(鹿角市)、樺(かば)細工製造販売の冨岡商店(仙北市)を「一般部門」で表彰した。
新谷理事長は「今後とも独所創的な経営で本県の産業振興に尽カしてもらいたい」とあいさつ。社に表彰状と助成金100万円を贈った。
新分野の事業開拓で業績を向上させている「新起事業激励賞」は該当がなかった。
秋田経済研究所は地域経済の活性化に貢献したり、特色ある経営で成果を上げたりした中小企業、団体を1979年度から毎年表彰している。
今回表彰を受けた3社の取り組みを紹介する。
(佐藤将弥)
雪道の安全に誘導等 秋豊ネットライズ(秋田市)今野邦義会長
1971年に創業し、自動車や食品などの輸送を担つている。従業員は約90人。雪国の道路を安全で環境に優しいものにしょうと、太陽光発電による誘導灯「みちほたる」を開発し2020年に特許を取得した。
「みちほたる」は周囲の雪から乱反射した光を工ネルギーに変換。発熱して雪を溶かす仕組みもある。県内を中心に北海道や東北で納入実續がある。
今野邦義会長(84)は「トラック運転手の不足は深刻で、新規事業を開拓する必要があつた。社会問題に対して何ができるか考え続けたい」と語った。
チェーン店多角経営 タカヤ(鹿角市)高谷秀和社長
1933年に創業し、眼鏡販売を手がけてきた。94年にNTTドコモの携帯電話の取り扱いを開始。2006年以降は多角化を図るため、サーティワンアイスクリームやコメダ珈排店、シャトレーゼなど大手チェーン店の運営に乗り出し、現在は福島を除く東北5県に25店舗を構える。
従業員数は約370人。人口減少に伴う県内マーケット縮小を打開しようと営業工リアを広げてきた。女性の活躍推進や働きやすい環境づくりにも積極的に取り組む。
高谷秀和社長(52)は「表彰は励みになる。8年後の100周年に向け社員一丸となって進む」と話した。
樺細工を海外市場へ 冨岡商店(仙北市)冨岡浩樹社長
1970年に創業し、樺細工の製造・販売を手がける。従業員8人。欧州への販路拡大に積極的に取り組み、樺細工の魅力を世界に発信している。
2012年にドイツで開かれた国際見本市に初出展して以降、海外の有名ブランドに製品が採用されるなど高い評価を得ている。通常使われないヤマザクラの未利用材の活用にも取り組んでいる。
冨岡浩樹社長(62)は「広く世界に発信するという企業理念をどう具現化するか考えてきた。世代を超えて使える樺細工を通じ、家族に絆に貢献する企業であり続けるため精進していく」と述べた。
郷(きょう)に掲載されました
秋田さきがけ コミュニティー マガジン
ふるさとのゆとり生活誌 郷(きょう)季刊誌 夏号 2025 Vol. 162 に掲載されました。
山桜樹皮の未利用材活用/質感豊かな内装パネルに
センシティブ・ウォール・カヴァーリング・パネル
●パリの見本市で注目
仙北市角館に本店を構える樺細工製造販売・冨岡商店が昨年商品化。日本ウッドデザイン協会の「ウッドデザイン賞 2024」で入賞。今年1月にはパリで開催された欧州最大級のインテリアデザイン見本市「メゾン・エ・オブジェ」に出展し国内外のインテリア業界から注目されている。
オリジナリティーあふれる内装パネルは、樺細工の新たな魅力発信を目指す冨岡浩樹社長と、仏在住デザイナー、マウリシオ・クラベロ・コズロフスキーさんとの交流で生まれた。
●仏のデザイナー提案
曲げわっぱとの組み合わせなど、江戸時代から続く樺細工のデザインに新風を吹き込み、仏高級ブランドのクリスチャン・ディオールとオフィシャルサプライヤー契約を結ぶなど積極的に海外展開を進める冨岡社長。仏出張で出会い10年来交流しているコズロフスキーさんから一昨年に樺細工の内装材への取り入れを提案され、「これだ」と膝を打った。
茶筒など一般的な樺細工には皮目が美しく厚過ぎず、磨くとつやが出る樹皮が好まれ、条件に合わない樹皮は大量に倉庫にストックされていた。この未利用材の使い道を模索していたさなかに受けたアイデアだった。
●重労働に報いたい
「樹皮の採取は木に登って行う重労働。作業員の仕事に報いるためにも、無駄なく採取した樹皮を使い切る方策が必要だった」と冨岡さん。
さらに、背中を押したのが「サキホコレ」のパッケージデザインでも知られるグラフィックデザイナー・原研哉さんの著書だった。「自然の美しさが引き立つのは人工物である建築との対置である」旨の一文に、より野趣に富んだ未利用材のパネルへの利用を決めた。
デザインはもちろんコズロフスキーさんが担当。一昨年角館に来訪し武家屋敷や樺細工伝承館などを巡り「武家」や「武具」に触発されたという8パターンがカタログで紹介されている。
大きさ自在の受注生産。価格は基本型(横90㌢、縦180㌢)で70〜80万円台という。都内の欧州ブランド店や宿泊施設の装飾に使用されるほか、内装デザイン会社などから問い合わせが相次いでいる。
●伝統に新風吹き込む
江戸の昔から続く樺細工。大正末期に民芸運動を主唱し角館の職人も指導した柳宗悦(やなぎむねよし)は「樺細工の道」で、樺細工は「優れた材料に立つ工芸品」と位置付け、「小型のものを中心に製産されるのが常道」と著した。「無機質の建造物に大自然の美しさを吹き込む」令和生まれの内装パネルに注入された「貴重な素材を無駄にしないSDGsの心」は、時空を超えて「民芸運動の父」の垂訓にも新たな風を吹き込んでいるのかもしれない。
NIKKEI DESIGN 2025年4月号に掲載されました
REPORT メゾン・エ・オブジェ2025
伝統素材、職人の技を武器に欧州に適応したデザインを披露
冨岡商店
伝統工芸と欧州デザイナーが融合、樺細工をウオールパネルに
山桜の樹皮を使った、日本ならではの樺(かば)細工。ひと昔なら文箱、現在なら茶筒で知られる昔ながらの技術を使い、欧州向けにデザインを施して成功しているのが冨岡商店(秋田県仙北市)だ。
今回、欧州で本格的に発表したのが「センシィヴ・ウオール・カヴァーリング・パネル」。フランスに拠点を置くデザイナー、マウリシオ・クラベロ・コズロフスキー氏がデザインした。素材を様々な形にカットし、広い平面に並べるシンプルなアイデアだが、日本人にとっては驚く発想だ。山桜の樹皮の野性味と繊細さを生かしつつ壁を美しく飾るモダンなインテリアマテリアルは、2024年の「ウッドデザイン賞」で入賞した。
冨岡商店は12~19年に独フランクフルトの見本市「アンビエンテ」に樺細工のトレーや茶筒などで出展。20年からはほぼ定期的に「メゾン・エ・オブジェ」に出展しており、フランスや英国の世界的に有名な企業とも取引がある。
日本では百貨店や専門店で取り扱いがあるが、海外向けのプロダクトのデザインにはコズロフスキー氏をはじめ、欧米のマーケットや好みを良く知るデザイナーを起用している。例えばドイツの「iF DESIGN AWARD」で金賞を受賞している伊東祥次氏などがいる。
「海外に出るときは、その地を知る人によってローカライズすることが大切」と冨岡商店代表取締役の冨岡浩樹氏は言う。今回の出展でも、様々なインテリアデザイナー、エンドユーザーとコンタクトがあったそうだ。
現在、原料の山桜樹皮は、サステナブルな計画の下で管理されている山林の木を使用。切った木は無駄が出ないように、すべて何らかの材料として使う。このセンシティブ・ウォール・カヴァーリング・パネルでも、主要プロダクトの茶筒には使えない樹皮部分を使っている。
(永末アコ=ジャーナリスト)
2025年2月17日 秋田魁新報に掲載されました
2025年2月17日、秋田魁新報に掲載されました。
【樺細工、気軽に貼って】
樺細工を気軽に手に取ってもらおうと、仙北市角館町の樺細工製造販売・冨岡商店がヤマザクラの樹皮を丸く切り抜いた「樺ステッカー」を販売している。
小さくて茶筒などに使えなかった未利用材を使用した。封筒や贈り物のほか、話題作りに名刺に貼るのもお勧めという。
法政大のヒューマニティデザイン研究室が企画・デザインを手がけ、冨岡商店が商品化。同市の指定障がい福祉サービス事業所「愛仙」も工程の一部を担う。冨岡浩樹社長は「樺細工の魅力を幅広い世代に知ってほしい」と話した。
質感が異なる「粗」「削ぎ」「磨き」の3種類で、価格は13枚入りで880円。JR角館駅舎内のNewDays角館や角館樺細工伝承館などで販売している。(石塚陽子)
2024年7月20日秋田魁新報に掲載されました
2024年7月20日秋田魁新報に掲載されました。
秋田県仙北市の樺(かば)細工製造販売・冨岡商店(冨岡浩樹社長)がヤマザクラの樹皮の未利用材を使った内装パネルを商品化した。海外デザイナーとの共同制作で樹皮のさまざまな質感を楽しめると好評だ。冨岡社長は「樺細工の新たな魅力を発信し、これまで行き場のなかった未利用材の有効活用につなげたい」と語る。
内装パネルは正方形や六角形など9種類で、組み合わせて使える。それぞれ質感が異なる未利用材を使うことで、樹皮本来の自然な風合いや荒々しさを表現した。価格は1平方メートル当たり20万~30万円。
同社によると、樺細工の材料調達は重労働という。2人で岩手県内の山林に車で片道3時間以上かけて向かい、ヤマザクラの木に登って樹皮を採取しているが、体力的に作業時間は2、3時間が限界という。樹皮が幹から浮き上がるのは梅雨明けから9月上旬までのため、作業時期も限られる。
一方、樺細工の材料として好まれるのは皮目がはっきりしていて厚すぎず、磨いた時にあめ色のつやが出る樹皮。そのため、採取した樹皮でも使用しないものがあったり、茶筒などの商品製造過程で使わない部分が出たりしていた。冨岡社長は倉庫に未利用材が積み重なってきていたこともあり、以前から活用法を模索していたという。
そんな中、昨年9月にフランス在住のデザイナー、マウリシオ・クラベロ・コズロフスキーさんから樺細工を内装材に取り入れてみないかとの提案を受けた。冨岡社長は2011年の東日本大震災で国内売り上げが落ち込んだのをきっかけに海外進出を本格化させており、コズロフスキーさんとは12年のフランスでの市場調査の際に知り合い、交流を続けていた。
コズロフスキーさんは昨年8月に仙北市の武家屋敷などを巡り、新商品開発に向けてイメージを膨らませた。翌月、市場調査でフランスを訪れた冨岡社長に内装パネルの企画書を手渡した。「人工的な建造物に樺細工の大自然の表情がよく合い心を動かされた。未利用材の活用にもぴったりと感じた」と冨岡社長。その後、冨岡商店が企画書を基に内装パネルを完成させた。
内装パネルは都内にオープンする欧州のブランド店の装飾に使われることが決まっている。冨岡社長は「海外の人たちの家屋などにも使ってもらい、樺細工の魅力を世界に広めたい」と話す。内装パネルに関する問い合わせは冨岡商店TEL0187・56・3239(石塚陽子)
商店建築 2024年7月号に掲載されました
樺細工のウォールパネル
茶筒やインテリア小物を中心に樺細工を行う冨岡商店は、使えずに行き場を失った山桜の樹皮(桜皮)をアップサイクルしたウォールパネル「センシティブ・ウォール・カヴァーリング・パネル」を発売した。自然素材で1つひとつ木の表情が異なるパネルは、KATANA や YUMI、TESSEN、KABUTO など9種類の形と、ポリッシュ、ロウの2種類の仕上げを用意。縦横自由に配置することで、さまざまな見せ方もできる。デザインはマウリシオ・クラベロ・コズロフスキー氏。
冨岡商店
URL◎https://tomioka-shoten.com/
電話◎0187-56-3239
2024年6月13日読売新聞に掲載されました
樺細工 海外のデザイナーとコラボで海外展開
あきた経済インタビュー
秋田を代表する伝統的工芸品・樺細工を製造販売する仙北市の「冨岡商店」は、樺細工の魅力を広く発信しようと、海外のデザイナーとの商品開発や国際見本市への出展などを積極的に行っている。社長の冨岡浩樹さんに海外展開の経緯や経営の展望を聞いた。(聞き手 浅水智紀)
●海外展開の契機は。
2008年のリーマン・ショックと11年の東日本大震災だった。テーブルや照明器具などの高額商品がリーマン・ショックでまったく売れなくなり、大震災では三陸地方に納入した商品が被害に遭い、その後も売り上げが鈍った。そこで12年、ドイツの国際見本市にモダンなデザインを取り入れた約30種類の商品を中心に初出展したところ、フランスの有名ブランドとの商談がまとまった。樺細工のような美しい桜の皮を使った商品は海外にはなく、世界で唯一無二のものだ。桜は日本のイメージとも重なる。
●海外デザイナーとのコラボが多い理由は。
海外展開に必要なキーワードは「ローカライズ」だと思う。フランスで売りたいなら、現地に住むクリエイターと知り合い、どんな商品なら普及するか考え続ける必要がある。最新作として先月発表した樺細工のインテリアパネルも、こうした試みの延長だ。南米出身でフランス在住のデザイナーと組んだ商品で、伝統工芸の素材をモダンにデザインした室内装飾として、ホテルや公共施設など様々な場面でも使ってもらえる商品に仕上がった。桜の皮はサスティナブルな素材であり、海外での受けもいい。
●今後の経営課題は。
悩みは原材料となるヤマザクラの皮の調達。樺細工は江戸時代の「武士の内職」だったが、芸術品の域に昇華してしまった。芸術品として使える素材は、赤紫色で、つやが良い、強靭さも兼ね備えた部分に限られる。採取した皮のすべて使えるわけではないので、それが新商品の開発を難しくしていた。
一方、桜の皮が取れるヤマザクラは広葉樹林の中に生えているので、山に分け入っての採取は重労働だ。なぜか、やせた土で日当たりもあまり良くないような厳しい環境の方が、樺細工に適した木に育つ。しかも、採取時期は幹から皮が浮き上がっている梅雨明けから9月上旬の短い期間に限られる。
毎年、自ら山に分け入っているが、採取場所まで往復2時間かかる場合もある。採取してくれる人々の収入を確保するには、茶筒には適さない桜の皮でも生かせるような新たな商品開発が必要になってくる。樺細工のインテリアパネルは、こうした意味でも期待される商品だ。
世界に一つ、秋田県独自の伝統工芸である樺細工を「使い続ける豊かさ」こそが、人々に潤いのある生活に貢献することだと信じている。それが我が社が掲げた経営理念。今後も、時空を超えた価値を樺細工に込めて発信していきたい。
とみおか・こうき
大仙市出身。角館高校、都内の大学を卒業し、1985年に冨岡商店入社、2005年に社長就任。角館工芸協同組合専務理事、仙北市商工会理事などを務めている。高校時代に始めた合気道は6段で、日本合気道協会で理事も務める。